良い写真を撮りたい③

 ②と③は元々1つの記事だったが、2つに分けた。

被写体、構図、技法、状況
イメージセンサーサイズ
③諧調(本記事)


1.諧調(トーン)

 諧調は写真の印象を決める非常に大きな要素である。明暗差のある領域がなだらかな諧調でつながっていると、一種の感動がある。特に暗い中にも豊かな諧調がある、というのが個人的には好きである。明るい中の諧調は結構分かりにくい。

暗い中にも諧調が見えるアムステルダムの早朝(*ist DS撮って出し)

1.1 ダイナミックレンジと諧調

 上の写真のように撮って出しでうまくいくのがベストだが、早朝やマジックアワーなど、条件が限られる。トーンカーブ調整やトーン圧縮(HDR)処理は、レタッチにおいて豊かな諧調を実現するための強力なツールである。

 当然だが黒つぶれ、白飛び、色飽和等すると、その諧調は完全に失われる。が、そこまでいかなくても、ほぼ黒、ほぼ白だと、目で見ても諧調がよく分からない。高すぎず低すぎない、ある輝度の範囲内で諧調があることが重要である。

上は撮って出し、下はHDR処理後
上の写真も実際は諧調が残っているが、ほぼ黒くつぶれて諧調「感」に乏しい (DP2 Merrill)

 なお表示するモニターの性能によっても、どこまでの諧調が見えるかが変わってくる。私の使っている16年前のEIZOのモニターでは下の画像の全境界線が見えるが、両端付近の境目が見えないモニターも多いはず。

グレースケール 64 階調 (by レンズ交換ノススメ)

 一般に、デジカメは黒い方にはつぶれずに結構粘るが、白い方はあっさり飛ぶ傾向にある。なので、白飛びしないようにアンダーに撮っておいて、暗部を持ち上げることで適正露出と豊かな諧調を両立させる伝統のレタッチ手法は、当時よりダイナミックレンジが広くなってきた今も現役である。
 ただし暗部のノイズも増幅されるので、前述のFOVEONのようなノイジーなセンサーでは、限度がある。

左は撮って出し、中央はHDR処理、右はさらにカーブ調整後
ダイナミックな空と雲を見せたいが、太陽が入っているためアンダーに撮って、
HDR処理で暗部の諧調を取り戻し、雲のコントラストと両立させる例 (X-T2)

 ちなみにそれをカメラ側で自動的にやってくれる機能が、FUJIFILM Xシリーズのダイナミックレンジ拡張や、SONY α7のDレンジ・オプティマイザー(DRO)だと思っているが、X-T2ではいつも拡張400%で撮っているのに対し、α7CではDROはOFFで撮っている。なんか違うんだよなぁ。FUJIFILMは、本当にこういうところがうまい。

1.2 諧調を強調するレタッチとRAW

 主題の諧調(部分的なコントラスト)を強調するレタッチは効果的で、多少トーンジャンプさせてでも行う価値がある場合が多い。目で見てすぐ分かるほどだと、ちょっと困るけど。

上は撮って出し、下はレタッチ後
灯台を黒くつぶさず、雲の諧調(光線)を出したかったが、
トーンジャンプとノイズが結構見える(DP2X)
トーンジャンプを抑えるため、RAWから現像しなおした写真
・・・明らかに諧調が綺麗だ(なおノイズ)

 JPEGは8bit(256段階)だが、RAWはカメラによって違うが12bit(4096段階)や14bit(16384段階)など、細かい諧調が記録されているので、大きくレタッチしてもトーンジャンプを起こしにくい。なおRAWから現像しても白飛び、黒つぶれした諧調はほぼ戻ってこない。

1.3 コントラストとダイナミックレンジの両立

 コントラストを上げるということは、その輝度領域の諧調の幅を拡大する(暗いところはより暗く、明るいところはより明るくする)ということなので、諧調がよりはっきりと見えるようになる。しかしコントラストを上げることは、白飛び、黒つぶれに近づく方向性であり、ダイナミックレンジと相反するように見える。

 コントラスト(諧調)とダイナミックレンジを両立させるには、ダイナミックレンジがまず根底にあり、大きく白飛び、黒つぶれさせないことは大前提である。そのうえで、見せたいところ=写真内の目立つグラデーション部(上の灯台の写真だと雲)だけコントラストを高めることで、ダイナミックレンジ感と諧調感を生かしたまま眠さを消すことができる。

 前掲の灯台の写真では、20%くらい以下の輝度域でのトーンカーブの傾きはOut(縦軸)≒In(横軸)であり、つまり暗部の諧調は変えていない。

 そして、その先のヒストグラムの谷の部分でトーンカーブの傾きを小さく(コントラストを低く)している。ヒストグラムの谷ということは、そのような輝度のピクセルは少ないということなので、その領域の画像が多少眠かろうが目立たない。そこを犠牲にして、その先のトーンカーブの傾き(すなわちコントラスト)を上げている。

灯台の写真のトーンカーブ設定の解説

 写真のどこの諧調を見せたいのか、が重要である。全域で「諧調があるだけ」の写真は、ただ眠い傾向にある。部分的には白飛びしたり、黒つぶれしていたとしても、見せたい部分の諧調がはっきりしている方が印象が良い、はず。

明らかに太陽が白飛びしているが、空と海の諧調感は良い感じ(X-E1撮って出し)

1.4 その他の諧調表現

 主題と背景が完全に分離している場合は、逆光で黒くつぶしてシルエットにしてしまうのも仕方ない場合が多い。しかしある程度の奥行きを持つ立体物は、黒くつぶすのではなく、その諧調を引き出すことで、いい感じの立体感を得られるかもしれない。

マジックアワーだが、背景と前景が分離しすぎているため、
グラデーションは空に任せて、鹿は黒くつぶした
(鹿の立体感、諧調感はあきらめた)

 影などにより平面(壁など)上にグラデーションが出ている場合、その平面に正対して撮ることで、手軽にグラデーションを得ることもできる。
 ただし太陽光は強すぎるため、直射部分と影部分では明度が違いすぎて白飛びや黒つぶれしてしまいがちなので、HDR処理が必要になることが多い。太陽光が弱まり、HDR処理が不要になるのがマジックアワー、とも言える。

草木の影が写る壁に正対して、HDR処理するのは甘え

1.5 諧調感の分類

 分類する必要があるかはさておき、いくつかの代表的なパターンはある。当然だが、複数に該当するものもある。

空、雲の諧調感

雲の立体感と夕焼けのグラデーション
雲の立体感

霧による諧調感

霧による低コントラストな奥行き感

平面上の諧調感

あまり平滑でない面のグラデーション

白飛び・黒つぶれしそうで、していない諧調感(立体感)

白飛び、黒つぶれしていない諧調感

ボケによる諧調

新緑をぼかしたグラデーション
紅葉をぼかしたグラデーション

2.諧調と立体感

 超適当に3DCGを作ってみた。順光や逆光では被写体がどんな形状なのかよく分からないが、横から光が当たっていると形状がある程度分かる。

 横から光を当てると、被写体に明暗ができ、それがなだらかな諧調を生む。立体だから諧調が生まれ、諧調があるから立体感が出る。もちろん、前述のように立体物ではない壁や夕焼け等にも諧調はあるので、その二つが表裏一体だとまでは言えないが、両者には強い関係がある。

逆光や順光では形状がよく分からない(立体感が乏しい)という例(3DCG)