なんだか長く使っているような気がしていたが、まだ約2年である。とはいえこの2年間がっつり使ったので、印象や評価は大体固まった。
- レンズ:NOKTON 50mm F1 Aspherical VM
- 評価:93点
世の中の50mm単焦点はF1.2が主戦場となっていた2021年末、コシナはそれをあざ笑うかのように50mm F1を発表した。MFではあるものの、F1にも関わらず、全長も質量も各社のF1.2レンズの約半分である。すごい。まぁMマウントレンズをEマウントボディに付けようとしたら全長で10mm、質量で100gくらい増えるが。
Noctilux 50/0.95 | RF50/1.2 | Z50/1.2 | FE50/1.2 | NOKTON 50/1 VM | |
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発売 | 2009/2 | 2018/10 | 2020/12 | 2021/4 | 2022/1 |
最短撮影距離m | 1 | 0.39 | 0.45 | 0.4 | 0.9 |
外径 mm | 73 | 89.8 | 89.5 | 87 | 73.6 |
全長 mm | 75.1 | 108 | 150 | 108 | 55 |
質量 g | 700 | 950 | 1090 | 778 | 484 |
初値 万円 | ?(100超) | 33 | 25 | 25 | 22 |
主流であるF1.4に対して、F1.2は0.5段しか明るくなっていない。正直言って、よく見比べないと0.5段の違いは分からないが、やはり1段の差になると比べるまでもなく感じ取れる(ことが多い)ものだ。
合言葉は「1段絞ってもF1.4」である。
研削非球面という新技術が使用されているためか、大量生産はできないようだ。発売当初、供給が追い付かず品薄だった。私は1年以上経って、品薄が解消された後に買ったので、即納であった。切削非球面は加工精度が悪いと玉ボケの中に年輪のようなパターンが出てしまうが、このレンズは研削で、その面精度は切削よりもはるかに高いのだろう、年輪は一切出ない。
このレンズの形状的な特徴は、なんといってもこの全長の短さである。この全長の短さも、非球面の賜物なのであろう。55mmといったら、ほぼSummilux-M 50mm F1.4の長さ(4th: 53.5mm, 5th: 59.3mm)である。それでいて1段明るい。
私がVoigtlanderが好きなのは、やはり性能とサイズのバランスがしっかり考えられているところだ。Otusとは違うw
また非球面レンズによる現代的な設計のおかげで、F1開放から使える。当たり前だが、F1開放から使えるというのは当たり前ではない。現代をもってしても超技術だと思う。ましてやこのサイズ、重量である。
多分フローティングなので、マウントアダプターのヘリコイドによる全群繰り出しでフォーカシングすると、かなり滲む。普通にレンズのフォーカスリングでは0.9mまでしか寄れないが、それでも近接域は多少滲む。
被写体に寄って背景をぼかすという撮り方をするレンズではないのだろう。

望遠レンズではない標準レンズのパース感があるにも関わらず、膨大なボケ量で前景と背景を分離する、みたいな撮り方がこのレンズの特徴的な画を生み出す秘訣だと思っている。
ピントはシビアではあるが、M型ライカで使用する際の距離計連動も高精度で、二重像でちゃんと合わせられる。EVFの方が歩留まりはいいだろうが、二重像でも問題ない。
描写は非常に素直ですっきり系。ボケがざわついたり、周辺が流れたり、陰謀が渦巻くような写りはしない。ただし周辺光量はがっつり落ちて、点光源は半月状まで削れる。
あまりに普通に使えすぎるので、F1という特別な存在であることをときどき忘れてしまう。
フリンジは絞っても絞っても改善されないので、あきらめて後処理で消すことをお勧めする。
絞るとこのレンズを使う意味は特にないが、絞れるという選択肢があることに意味がある。逆にF値の暗いレンズは、その開放F値以上に絞りを開けるという選択肢はないから。
ここまでべた褒めしたわりに、93点というさほど高くない微妙な点数を付けたのは、寄れない、色収差、口径食、という3点に依るものである。F値は1段暗くても、総合的にはPlanar T* FE50mm F1.4 ZAやSUMMILUX-M 50mm F1.4 ASPH.の方がはるかに上だと思う。
だが、(私の所有レンズ中では)このレンズでしか撮れない写真があるのは、もう決定的に間違いない。