カメラ用レンズは安いものじゃないんだから、買う理由が必要だ。α用の85mm単焦点を買おうと検討したときの思いを。
今持っているレンズでカバーできないのか?
- 85mm単焦点
- XマウントではXF56mm F1.2 APD(FF換算で約85mm相当)を使っていたが、Eマウント移行時には85mmではなく、同じAPD内蔵のFE100/2.8 STFに買い替えたので、85mmの単焦点は持っていない。
- 近い焦点距離の単焦点
- (検討した当時は)HD PENTAX-FA77/1.8 LimitedとFE100/2.8 STFがある。画角は少し違うが、これらと両立、またはHD FA77/1.8を置き換えるというのも視野に入れて検討する。
- FE100/2.8は良いレンズだが、ときどきF値&T値に不満が出る。もうちょいぼかしたいとか、もうちょいシャッタースピードを稼ぎたいとか。
- 望遠ズーム
- 70-300mm F4.5-6.3を持っており、画角自体はカバーしているが、F値が違いすぎる。また、このレンズの100mm以下は画質がもう一つ。やはりズームと単焦点は用途が明確に違う。
より美しく撮れるのか?
- 解像力、光学性能
- FA77/1.8とFE100/2.8はともに、かなりとんでもない光学性能なので、それらを大きく上回ることは期待できない。
- 解像力はこれらに準する性能で、ほかの部分で上回りたい。とりあえずカリッカリなのは不要で、開放では多少は滲んでもよいが、しっかり解像する芯が欲しい。ポヤポヤなのはNG。
- F値の小ささ(暗所でのノイズ、ボケの大きさ)
- 85mmといえばポートレートレンズ。主題を浮き上がらせる被写界深度の浅さが特徴。
- FA77/1.8もFE100/2.8もそこそこ良いF値だが、85mm F1.4となるとボケはそれらより一回り大きい。85mm F1.8でも悪くはないが、ここは差をつけられるポイントなのでF1.4が良い。
- ボケの質
- FA77/1.8はピント面からなだらかにとろけるボケ、FE100/2.8はあらゆるボケのエッジを柔らかくするSTFと、それぞれにチャンピオン級である。
- 両者と競合しないボケ質として、ふわっと柔らかくボケるレンズが望ましい。オーバーコレクションで後ボケに明るいエッジが出るようなのは今回はパス。
- 口径食、絞り形状
- FA77/1.8はF2.5くらいから、FE100/2.8は開放F2.8からほぼ口径食はない。絞り形状もどちらもある程度円形を保つため、玉ボケの美しさはかなり高レベルと言える。
- ここもこれらに準する性能として、ほかの部分で上回りたい。
より効率よく撮れるのか?
- AF性能
- FA77/1.8は一応、マウントアダプターLA-KE1でAF駆動させることは可能だが、精度・速度とも良くはない。FE100/2.8は特別速くはないが、現代的でまともなAFである。
- AFレンズなら、そのAF性能はFA77 + LA-KE1は上回らなければならない。FE100/2.8を上回りたいなら、純正かSigmaしかないだろうが、そこまではいかなくてもいい。
- FE100/2.8があるのだから、85mmはMFでもいいのでは?という考え方もあり。・・・Otus ML 85/1.4?いやいや。
- 操作性、質感
- 絞りリングがついているとか、カスタムボタンがあるとか。ヘリコイドや絞りの操作フィールが良いとか。デザインが良い(古びない、高級感がある)とか、所有欲を満たすとか。剛性感があるとか。・・・まぁ、ここは今回はあまり拘らない。絞りリングはあったほうが嬉しいが。
- 85/1.4級でそれはないだろうけど、プラマウントは不可。
より多くのシーンで撮れるのか?
- 手振れ補正
- FA77/1.8は手振れ補正なし、FE100/2.8はあり。
- α7CRはボディ内手振れ補正がまぁまぁ効くので、そこまで重要ではない。もっと超望遠ならレンズ内蔵の方が効くのかもしれないが。
- 小型軽量
- FA77/1.8は結構小さいけど、FE100/2.8はでかい。
- さすがにFE100/2.8より大きいのは無理。持ち出さなくなる。
- 防塵防滴
- FE100/2.8は防塵防滴だが、FA77/1.8は違う。
- だが全部のレンズが防塵防滴である必要はないし、すでに50mmと100mmがあるので、その中間の新規導入レンズはそこには特にこだわらない。
そのレンズを使うことに意味があるか?
- もちろん、本当は意味なんてものはどこにもないのだが、つまりはブランドや感情面について。でも気分の問題というのは、馬鹿にはできない要素ではある。なんとなく、自分らしさというか、モチベーションにつながるというか。
- 例えば、私はZeissが好きとか、FA-Limitedが好きとか。言い換えれば、Zeissの伝説を紡ぐ一端になりたいとか、FA-Limitedを誰よりも理解し使いこなす人でありたいとか。
- 例えば、Light Lens LabのSummicron-M 50mmのパチモンは、やっぱり使っていて後ろめたさ?後ろ暗さ?を拭い切れなかったので、本物のSummicron-M 50mmを買い直したときに早々に売ってしまった、とか。
候補
ということで、FA77/1.8とFE100/2.8という既存ラインナップに新たに85mmを追加するなら、
- ①F1.4で
- ②FA77/1.8 + LA-KE1よりはAF性能が良くて
- ③FE100/2.8よりは小型軽量で
- ④FA77/1.8やFE100/2.8にも引けを取らない光学性能&ボケ質で
- ⑤感情面でそのレンズを使う理由、意味がある
・・・ようなレンズが望ましい。厳しい基準だが、これを全部クリアするレンズがないのであれば、何も買わないのが正解だろう。
項目 | FE85/1.8 | FE85/1.4 GM | FE85/1.4 GM II | Art 85/1.4 DN | Batis 85/1.8 | 85/1.4 ZA + LA-EA5 |
---|---|---|---|---|---|---|
①F値 | ▼ | ○ | ○ | ○ | ▼ | ○ |
②AF性能 | ○ | △ | ○ | ○ | ○ | △ |
③小型軽量 | ○ 371g 82mm | △ 820g 108mm | △ 642g 107mm | △ 625g 96.1mm | ○ 452g 92mm | △ 728g 101mm |
④光学 | △ | ○ | ○ | ○ | ▼ 歪曲 | ○ |
⑤感情面 | △なし | △なし | △なし | △なし | ○Zeiss (Sonnar) | ○Zeiss (Planar) |
中古価格 | 5 | 13 | × 25 | 10 | 9.5 | 6.5+2 |
SigmaのArt 85/1.4のDG HSMの方とか、Minolta AF85/1.4Gとかはとりあえず載せていない。Samyangや中華系も調べていない。まだ発売されていないOtus MLも除外、というかMFレンズは含めていない。
値段は置いておいて、一応全部が△(=及第点)以上なのはFE85/1.4 GMとArt 85/1.4 DG DN、Planar 85/1.4ZAだった。理性的に言えば、SigmaのArt 85/1.4 DG DNがベストな選択肢だと思う。しかし、SigmaのArtレンズが私らしい選択かと言われれば、そうは思えない。SonyのGMも然り。愛用のFE100/2.8もGMだが、あれはSTFだから選んだ。
メーカー自身が、このレンズは高性能だぞ!と主張している製品ラインは、あまり私の琴線に触れない。Sigma Art 85/1.4はDG HSMからDG DNで劇的によくなったし、FE85/1.4 GMからGM IIでも性能が向上しつつ小型で高速になったと言われる。そう、逆に言うならば性能重視の製品は、時間が経つにつれて圧倒的に古びていく。
仕事じゃなくて趣味の道具ならばこそ、その製品を選ぶ決定的理由は性能じゃなくて、感情でなければならない。なので、グッとくる何かがあるならばGM等を選んでも何ら問題はないが、私はそうではないというだけの話。
プロじゃないけど性能的に最高の機材を使うことで自分の逃げ道を塞ぎ、言い訳なしに無差別級で戦うのだ、と最高の機材を乗り継いでいくも潔し。
性能やブランド力で劣ったとしても、プアマンズ・ポルシェで本物のポルシェに挑むことに血道を上げるも良し。
世の中であまり評価されていなくとも、自分だけがその価値を分かっている、真価を発揮させられる、またはそのようなレンズを探しだすことに悦に入るも良し。
伝統と文化を宿したブランドを、自分の手で操ることに喜びを見出すも良し。人それぞれ。
買った
ということで、AマウントのPlanar T* 85mm F1.4 ZAを買った。なおこれを買ったので、その後smc FA77/1.8 Limitedを修理して、HD FA77/1.8 Limitedは売却した。
例えばSony(ミノルタかもしれないが、詳しくは知らぬ)が開発したレンズでも、Planarを名乗るなら、数値性能も十分あるだろうけど、それだけじゃなくて、その伝説の名を継ぐにふさわしい情緒的な何かがあるような気にさせてくれる。事実はどうあれ。
でもコニカミノルタの事業引き継ぎではあるものの、新規参入で当時はブランド力がゼロだったSonyが、イメージアップを図って初めてZeissの名前を借りるのであれば、そのレンズに気合が入っていなかったわけがない。
話は逸れるけど、このレンズとSonnar 135/1.8 ZAと135/2.8 STFを同時に発売したというのが驚き。望遠3本で、うち135mmを2本同時って。しかも3本とも今もなお名レンズだ。
名前は同じでもこのレンズと直接は何の関係もないが、ヤシコンのPlanar T* 85/1.4 AE/MMも意識するが、あれはオーバーコレクション気味のTheオールドPlanarって写りだよなぁ。コシナのPlanar T* 85/1.4 ZF.2もそれに似ている。それらはとりあえず今、私が求めているものではない。
また名玉ミノルタ85/1.4Gの後継というだけでなく、幻の85/1.4G Limitedの光学系の系譜という噂もある。こちらは特段心惹かれるものでもないが、まぁ伝説には事欠かない。関係ないけど、Sonyが今後Gレンズ、G Master (GM) のさらに上のシリーズを出すとしたら G Limitedなのかな?とか思ったり。
前置きがとても長かったが、ここまでの写真は全部このレンズの作例である。絞り開放の等倍切り出しでも、柔らかさはありつつもちゃんと6000万画素に耐えている。猫を認識してAF-Cでトラッキングして、完ぺきにピントが来ている。性能で選んでいないといいつつも、性能も申し分ない。
私はこれまで85mm F1.4を使ったことがないので、ほかの85mm F1.4がどうなのかは知らないが、その写りはかなり気に入った。FA77/1.8みたいになだらかにとろける、というのとは違い、ふゎぁぁとボケる。開放でピント面がカリカリにシャープでないという点でも、正統派ポートレートレンズだなぁ、と感じる。前ボケはもっと汚くなるかと思ったが、そうでもない。
LA-EA5について
LA-EA5は軽くて小型で(電子アダプターにしては)安くて、Sonyの技術力に驚く。性能もかなり良い。このレンズとSonnar 135/1.8 ZAを、最新のαで像面位相差AFできるようにするために、LA-EA5は開発されたと私は思っているので、ミノルタのAマウントへのリスペクト的なものを感じる。その辺も(某N社とは違って)情緒的な部分で意味があるような気がする。まぁ、気のせいだろうけど。でも最近の某N社は、代償をすべてユーザーに払わせながら、旧マウントの鬱憤を晴らしているだけのように見えるので好きじゃない。
α7CRを買った時のポイントをレンズに、ほかの量販店のポイントをマウントアダプターLA-EA5に投入。2006年発売時の約19万というのは当時ならなおさらの相当な額だと思うが、今や外観のぼろい中古並品なら約5万円からある。私の買ったのはフード付きの良品なのでもうちょいするが。
・・・ということで、多分2か月以上前に書いたが、ずっと下書きのままになっていた記事を今更公開。