XF35mm F1.4雑感

これまで6回のレンズ雑感で、4回が35mmとか馬鹿なのか。APS-C用とフルサイズ用が混ざっているとはいえ。

  • レンズ:FUJINON XF35mm F1.4 R
  • 評価:96点

 まだ1年ちょっとしか使っていないが、すでに私の中では標準レンズの絶対王者である。これまで使ってきた単焦点標準レンズ20本以上(ライカ3本、ツァイス5本など)の中では、迷うことなくこれがベストだと思っている。もちろんそれはFujifilmのボディの実力も加味して、ということになるが。

 最初にX-E1を買った際に、とりあえずの一本目として本レンズとXF18mm F2で迷い、結果として後者を選んだ。これは6年ほど使ったが、もう一つピンと来なくて売却した。

 X-E1を買ってから数年経ち、ミラーレス メインで生きていく覚悟を決め、標準レンズを買おうとしたとき、本レンズとXF35mm F2で迷った結果、F2の方を買った。そしてまた数年、ちょうどXF33mm F1.4が出る頃だったが、その時は迷いはなく、本レンズを買った。

 その後、2倍くらいに値上がりしており、私は新品4万円台で買える最後のチャンスをものにしたようだ。間に合った。

 フルサイズ換算(私の所有するX-T2 ⇔α7Cを想定し、センサー対角長は1.51倍とする)の画角とボケ量において53mm F2.1くらいに相当する。なので一般的な50mm F2と同じ感覚で使える。もちろん明るさとしてはF1.4なので、フルサイズの50mm F2よりもISO感度は1段下げられる。

 球面収差は表現力のためにあってよい善玉収差だが、それ以外の収差は基本的に悪だと思っている。球面収差のみをわずかに残すXF35mm F1.4が素晴らしいと思うところである。なお像面湾曲収差は広角レンズでは嫌だが、標準レンズ以上の焦点距離なら多少はあってもいいとは思う。

 開放F1.4ではふわっとした球面収差が残り、後ろボケがとても美しく、F2くらいまで絞るとほぼ収差は解消し、現代レンズとして文句なく精細に写る。このF1.4~F2のように、収差の変化を使いこなして撮るのが写真の醍醐味だと思う。

 このレンズはX-H2やX-T5などの4000万画素カメラ用の推奨レンズとしては載っていないが、X-T5のカタログの1ページ目は、このレンズを付けたX-T5を構えるモデルさんの写真であった。Xシリーズの最初期のレンズだが、実際、素晴らしいんだから仕方ない。

 難点は全群繰り出しだからAFが遅く、AF動作音もちょっとうるさく、絞りが動く音もチッチチッチうるさい。あらゆる意味で動画に使うのは無理だろう。防塵防滴ではないため、雨の日は気を使う。あとは(軽さ、安さとトレードオフだが)外観はプラでちょっと安っぽい。つまり、どれも写りに関する不満ではない。

 全長は50mm、重量は190gと、かなり軽量・コンパクトである。X-Tひと桁機に付けても、計700g程度である。良い。

 最近は小型・軽量=全体的に低スペックで初心者向けなのが多いような気がしていて、つまらない。小型・軽量にするため何かを割り切りつつ、別の何かに全振りしているような中・上級者向けレンズも欲しい。

 このレンズはほぼ間違いなくXマウントの顔として設計されたにも関わらず、このとんがった特性である。スコア的なレンズ性能は捨てて、AFレンズだけどAF性能も半分捨てて、かといってMFも使いものにならず、数値にならない味わいと描写を突き詰めている感じ。

 その後のXマウントレンズには、味わいや楽しさを重視したレンズは少なく、もっと数値で見える性能を重視しているように感じる。もちろん、うまく両立しているレンズもあると思うが。

 キヤノンやソニー機で仕事をしてきた人が、仕事用カメラをフジに乗り換えることはほぼないと思うから、巨大で性能面に弱点のない仕事カメラ&レンズではなく、小型で楽しい趣味カメラ&レンズを追求してほしいなぁ、と思う。

 最短撮影28cmは、53mm相当と考えるとかなり寄れる。テーブルフォトでも文句はない。寄れるレンズは楽しい。解像力が多少落ちようが、寄れた方が嬉しい。ほかのレンズも性能保証できる距離以上寄れなくするのではなく、そこからは自己責任でいいから寄れるようにしてほしい。

 最近、標準レンズや35mmなどの中広角において、寄れる、という性能は非常に重要な気がしている。寄れるレンズなら、付けっぱなしにできるのだ。

 このレンズに出会ったことで、約15年来の標準レンズ沼からやっと脱却できたと思っている。2013年にX-E1を買ったとき、一緒に買うべきだった。

 7artisans 35mm F1.2は撮影中はとても楽しいが、破綻することもあり、いつも思った通りの絵が得られるわけではない。期待に応える安定感と利便性ならXF35mm F2が盤石だが、期待を超える爆発力はない。XF35mm F1.4にはその爆発力がある。